飾り気のない鞘から短い刀身を引き抜く。


傷一つない白刃は鏡のように辺りを映して。そこに映った疲れた顔をした自分と目が合うと、なんとなく見入ってしまった。





「総司!」

「わっ!?」



すると直後、突然物凄い力で腕が掴まれて。


最近すっかり気配に疎くなった私は、全く気が付いていなかったその人の存在に只々驚くことしか出来ず。


大きく目を見開いた間抜けな顔で、その人を見上げた。




「土方……さん」

「おめぇまで死んでどうすんだ!んなことしたってあいつは喜ばねぇぞ!」



必死の形相で掴み上げられた手。


あまりに突然過ぎて言葉の理解が遅れた私はごくりと唾を飲み、それを租借する。


そこで漸く腕を掴まれた意味に納得して、ゆるゆると緊張を解きながらその人に微笑みを返した。



「わかってますよ。ただ少し、髪を残していこうと思ったんです」



淋しいなんて、あいつは思わないかもしれないけれど、少しでもその側に何かを残しておきたかった。


江戸に下れば、私はもうきっと此方には戻れない。


自分の体だ、残された時間がそう長くないことくらいわかってる。


互いに違う土地で土に還る私達を繋ぐものなんて何もないから。


ほんの僅かでも此処に私を残していきたいと望むのは、私の、最後の我が儘だった。