細く息を吐いて、もう一度輝く海を見つめる。
山崎をそこに見送ったからだろうか、不思議とその高さに恐怖は湧かなくて。
船が海を割る穏やかな波が、耳に心地いい音を奏でていた。
『……山崎?』
未だにはっきりと思い出されるのは昨日のこと。
私の長着を掴んでいた指がするりと落ちて。
私は、したくもない理解を、したのだ。
「っ」
再び込み上げそうになる涙を唇を噛んで堪える。
あいつが眠り続けていた間にそれなりの覚悟はしていたものの、いざそうなってしまえば辛くない訳がない。
でも、それでも出来るだけ笑うと決めたのは、あいつが、これまで見せたこともないくらい穏やかで、満足そうな顔をして逝ったからで。
「……あれで、良かったんですよね」
あいつらしい最期だった。
死ぬ間際まで自分勝手で強引だったその生き方には羨ましさすら覚える。
以前、あいつに他人(ヒト)の生き様を否定してもいいのかと問われたことがあった。
だから私は、震える感情を押し込め、その我が儘に答えてやろうと思ったのだ。
最期まで重ね続けた唇は、未だにその体温すら感じる気がした。
それは心底残酷で。
至極、甘やかだ。
「……こほっ、ごほっ」
新春を迎えたとは言え、まだまだ冬の気配が居座っているこの時季、遮るもののない海の上は酷く凍える。
痛い程に冷えた空気に体も胸も悲鳴を上げ始めて。
こんなところで体調を崩す訳にいかない私は、仕方なく船縁に預けていた体を起こし、忍ばせてきた懐刀を取り出した。