その日、どこまでも晴れた空は遥か遠くで青い海と一つになっていた。


身を切る寒さの中、穏やかに凪いだ海は日の光をキラキラと映して輝いていて。


私達に漂う重たい空気まで吸いとってしまうような、晴れ晴れとした美しさだった。



昨夜、眠るようにそっと息を引き取った山崎の水葬が執り行われたのはついさっきのこと。


江戸に向かう航路の途中、少しでも郷里に近い方が良いだろうと言って、皆に話をつけてまわったのはまだ怪我の癒えていない近藤さんで。


見送りながら裃姿で涙を流すその人の代わりに、土方さんが海にお酒を撒いていた。


深い藍を宿した海に抱(イダ)かれたあいつは、境目をなくしたあの海の向こうから空に上るのかもしれない……なんて。


自由なあいつなら有り得そうな想像に少しだけ笑って。


私は甲板の隅からただ青だけが広がる海を見つめた。






「……山崎」



もう返事はいつまで経っても返ってこない。


気配もなく現れて何度も私を包んだあの匂いも温もりも全て、海に消えてしまった。



「……、阿呆」



あいつが口癖のように口にしていた言葉を真似るとじわりと目の奥が熱くなって、慌てて首を振る。


ゆっくりと息を吸い込もうとすれば今度は咳が溢れて。



「……馬鹿、ですね」



そんな落ち着きのない自分の行動に、やっと、笑みが浮かんだ。