「十分や」


結局のところ、遠い郷里に戻るだけの体力もないあいつは京に残るより他はない。


此処で囲うと決めたのは、やはりあんな体の沖田を己の目の届かない所へと出すのは不安なのだろう。


あいつのこれからを考えると、辛くてもなんでも己の手元に置いた方がよっぽど安心出来る。


そんな副長の思いが手に取るようにわかるのは、俺も似たような思いがあるからで。


きっと、沖田の周りにいる連中は皆、そうするより他に選ぶ道はないのだ。




「あれの体は俺が看る。自分は諸々の手筈よろしゅう頼むで」

「相変わらず偉そうだなてめぇはよ」

「何言うてんねん、副長はんの補佐したってるだけやろ。それにあれは俺のやさかいな、今更何したかて返されへんで?」



口許だけに弧を描いて微笑む俺に、副長が僅かに目を瞠る。


さっきのやり取り。
これまでこの人の想いに全く気付いていなかった沖田も、間違いなく何か感じるところがあった筈だ。


今更沖田が心変わりするとは思えないものの、これ以上あれを惑わすことは止めていただきたい。


あれの中にあるのは俺だけで十分だ。





「……やっぱり可愛いわお前」


そんな俺の独占欲に見たこともない笑顔で笑うその人は、やっぱりちょっと、むかつくかもしれない。




「あんさんもとうとう衆道か……」

「ちげぇよ馬鹿!」