飼い猫と、番犬。【完結】


これだけ次から次へと不幸が舞い込む人間もそういないだろう。まるで全てがその身に与えられた試練のような人生だと思う。


まぁ、薄幸で不器用にしか生きられないこいつだからこそ、俺もまた手を貸してやりたくなるのだが。



「……ひっどい顔してや」



無防備に泣き顔を晒す奏に小さく笑って手拭いで顔を拭ってやると、乱れた布団を整え沖田を横たえる。


元より体調もあまり芳しくなく、泣き疲れたそいつは暫く起きることもないだろうとその柔かな髪を梳いて、俺は一人副長の部屋に向かうことにした。





「……良い面(ツラ)じゃねぇか」



目の前に腰を下ろした俺に、脇息に持たれかかったその人は煙草の煙を吐き出して意地悪く片口を上げる。


いつもの堅さもなく、どこか隙のあるその様子は美丈夫ならではの迫力を身に纏っている。


この無駄にやらしいにいちゃんめ。



「ほんまやで、どこぞの糞力が阿呆みたいに本気で殴りよるさかいになぁ」

「避けなかったのはてめぇだろうがよ」


ふっと鼻で笑って煙草盆に灰を落とした副長は、そのまま慣れた手付きで再び煙管に煙草を詰めていく。


部屋は既に白く霞み煙草の臭いに満ちていて。あれから何度も同じ作業を繰り返しているんだろうことが窺えた。


「こほっ、この煙いのんの何が旨いんかわからんわー俺まで臭なってまうやん」

「五月蝿ぇ、嗜(タシナ)みだ嗜み」


しかしながらそのお陰なのか随分と落ち着きを取り戻した副長はいつもと変わらぬ様子で煙管をくわえ、すうっとゆっくり息を吸い込む。