飼い猫と、番犬。【完結】


顔を俯かせた奏の唇が緩やかな弧を描く。


「ほんと、優しくない人ですよね」

「あ、それ元嫁にも捨て台詞でもーたわ」

「……その情報は要りません」

「はいはい、ヤキモチ妬かんでええからほれ」


ぱたぱたと落ちる滴。
こいつの涙を見るのは山南さんの粛清以来だと、少しだけあの日のことを思い出して、俺は目の前に垂れたその頭を混ぜた。



「胸でも膝でも好きなだけ貸したるさかいにちゃんと泣き」

「っ、ぅぇ」



本当に、こいつは泣くのが下手くそだ。


小さな童のように鼻を赤くし声を上げて体を震わせる。


上手く人に甘えることも知らず、我慢に慣れてしまっていたこいつが限界まで堪えた感情は、溢れる涙と共に零れ落ちた。



嫌だ、怖い、どうして。



気休めなど言えない俺は、ただ短く相槌を打ちながらそいつに触れる。


背に、頬に、髪に。
その慟哭に着物を濡らしつつ、幼子をあやすかのように奏に触れてどれくらい経った頃だろうか。


気付けば膝の上に、しゃっくり混じりの寝息をたてるその姿があった。





「……ほんま、運のないやっちゃで」