それは俺だけに許された真(マコト)の名。
普段人の前では決して呼ぶことのないその名を口にするということは、本当のそいつに触れる、合図のようなものだった。
「……へ?」
そんな名を呼び、不意に口付けた俺に奏が瞠目する。
若干緊張感を欠く声はやはりそいつらしいと、少しだけ目尻が下がるけれど。
それがまた内に巣食うもどかしさを増長させた。
「阿呆、大丈夫ちゃうやろ」
大切に、とは一体どんな風に接することをいうのか、俺には少しわからない。
副長や斎藤くん──藤堂くんも。彼らのそれと俺のそれは何処か違う気がする。
けれど、どう足掻いても俺はそっと真綿でくるむような柔らかな優しさは持ち合わせていないのだから仕方ない。
「この期に及んで溜め込んでどないすんねんど阿呆。迷惑やとか思わんでええさかい、思とることはちゃんと全部言わんかい呆け」
居住まいを正してそいつに向き直る。
例え何があってもこれまでと変わらず接すること。
それが俺がこいつに与えられる一等の優しさなのだ。
「……貴方はなんでそんなに偉そうなんですか」


