己の預かり知らぬところで行われていた山南さんの切腹への不満は、先の一件で不信に変わったのだろう。
そんなところでの伊東の分離。
元より師であった彼についていく決意をしたのは当然かもしれない。
「ほな沖田にちゃんとそう言うたらええやん」
「……貴女が父のように慕ってる人と貴女の元恋仲にはもうついていけませんって?」
「ほんまのことやろ」
「……皆が皆あんたみたいに図太くないんだよ。……良いんだ、あとでちゃんと顔は見せるからもう放っといてよ」
深く息を吐き、幾分落ち着きを取り戻した藤堂くんはもう足を止めることはなかった。
雀が囀ずるのどかな春の気配が戻ってくる。
降り注ぐ麗らかな陽射しを少しだけ熱く感じながら、遠くに揺れる木立の音にそっと瞼を閉じた。
「……阿呆め」
最近の藤堂くんを見ていると出会った頃の沖田を思い出す。
想い人を遠くに見つめ、それでいて全てを諦めたようなくすんだ目でただ日々を過ごす。
やはり似た者同士だと思う。
側にいることを選んだあいつと離れることを選んだ藤堂くんとの違いは、離れた先での居場所のあるなしなのかもしれない。
それでも沖田の体の事を考えると、例え知らないにしても今ここでその選択をした藤堂くんは本当に──阿呆だ。
「……」
葛藤はあった。
けれど間違いなく皆に知れ渡ってしまうことになるだろう彼にはやはり言えなかった。
しかしながらもやもやとする心は晴れない。
それは彼らが隊を離れると知った時の沖田の顔を見たからで……。
「はあっ」
そんな思いを振り払うように大きな溜め息を溢して体を起こすと、俺もまた、さっさとそこを離れる事にした。