屋根の上から井戸端に立つ子猿に声を掛ける。


手を洗っていたそいつは僅かに動きを止めて、此方を振り向くでもなく縁に掛けていた手拭いに手を伸ばした。



「……あとで行くって言っといてよ」

「何で俺が自分の言伝聞いたらなあかんねん、自分で言わんかい」

「……そ」


麗らかな日差しに暖められた瓦は身を起こすのも億劫になるくらい気持ちが良い。


寝そべったまま欠伸を溢す俺を横目で一瞥した藤堂くんは、そのまま沖田とは反対の方向へと歩き始める。


「そっちやないで」

「五月蝿いな、あんたには関係ないだろ」

「結局逃げんねや?」


へぇ、と流れる雲に独り言のように呟けば、乾いた砂を踏み鳴らす音がはたと止まった。



「……悪い?一緒にいたって見たくないもの見るだけだし総司にだって気を使わせる。やっぱりもう、何もなかった頃には戻れないんだよ。それにさ、近藤さんも土方さんも勝手だよ。山南さんは見捨てた癖に伊東さんや新八達はたった数日の謹慎とかさ。それならっ……どうして山南さんは助けてくれなかったんだよっ!」


震えた声。


堪えていた全てをぶちまけるような彼は、拳を握って足許を見つめる。


そこに俺の存在などなく。
彼の怒りは今彼(カ)の二人へと向けられていた。



「俺は、これ以上あの人達に都合よく使われたくなんてない」