「……監察方相手に脱走せぇとはええ度胸や」
くっと口角を上げる。
体ごと向き直った俺はひらりと手を振り、その目に微笑んで見せた。
「せやけど残念や、俺には出来ん。したいんやったら自分でしぃ」
沖田はそんなことを望んではいない。
あれが望むのは最後まで此処の連中と共にあることだ。だからこそ斎藤くんや藤堂くんのことでその頭を埋め尽くしたりする。
あれは『俺だけ』を欲しているのではない。
自分の周りにいる人間全てを欲する欲張りな人間で。
稀代のど阿呆や。
「……冷たい奴だな」
「阿呆ぬかせ、ええ男過ぎるやろ」
「……わかってはいるんだ」
微かに口許を緩ませて再び遠くを見つめる斎藤くん。
それは、これから己を押し殺し続けなければならない彼が溢した、ほんの僅かな弱さに見えた。
此処は阿呆ばっかや。
「……ま、あれがややでも孕めば考えたってもええで」
「やっ……」
突然消えたら御免やで?、と小首を傾げてニヤリと笑って見せた俺に、半開きになった口を固く結んだ斎藤くんが冷ややかな光を湛えて睨みくる。
「……さっさと消えろ」
「ほなお言葉に甘えて」
その消えろが今を指すのかそのもしもを指すのかはわからなかったけれど。
俺もまたほんの少しだけ、来ない未来を考えた。


