しかしながらまぁあいつなりに沖田に気を使ったのもあるのだろう。前々からあれは沖田に懐いていた。中々賢明な判断だ。


なんて笑みを浮かべる俺に、沖田が頬を膨らませる。



「それより元はと言えば貴方が堂々と変なことするからややこしくなったんですからね!っ、けほっけほっこほっ」

「ややこないわ、あいつにゃあれでええねん。淡い期待は打ち砕け、それが互いの為や。ちゅかもうええやろ、自分も早よう休んどき」


基本こいつの口から出るのは周りのことばかりだ。放っておけば自分の体は顧みない沖田につい口煩くなってしまう。


本来なら静かに療養するべき病、協力すると決めた以上少しでも長く此処に立たせてやるのも俺の役目。



……少しでも、や。



そんな風に思う自分が擽ったくもあるが、どこか納得もしていた。


当たり前のようにそこにあったものが突然消える、琴尾の時に身をもって知ったそれは思いの外淋しく、空虚だった。


だが今はまだ消えた訳じゃない。消えると、決まっただけ。


俺は欲深い。


この手から溢れ落ちるものだからこそ欲してしまう。


誰にも掬えないからこそこの手に囲い、俺のものだと主張してやりたくなる。


今が一番愛おしいちゅうたらこいつは、何て言うんやろか──




「……あの、どうかしました?」


ただ黙ってその頬に掛かる細い髪に指を通す俺を、沖田が照れの入り交じった顔で見つめてくる。


「……や、なんも?ほなら俺も仕事戻るし、ちゃんとのんびりしとくんやで」


刻限なと微塵も感じさせないその顔を見ると、今の言葉はまだ早いような気がした。