飼い猫と、番犬。【完結】


日野からの付き合いである左之さん、新八さん、平助の三人の騒がしさを思い浮かべていると聞こえた言葉。


──金打


互いの刀を合わせるそれは、武士の魂と魂を打ち合わせて制約を交わす誓いの証。その約束を違えれば死ぬまで生き恥を晒し続けることになる、武士にとっては重い誓いだ。


酒の勢いで簡単に打ち鳴らす輩もいるけれど、土方さんはそんなこと絶対にしない。


昔からあの人は出来ない約束はしない人だから。


なのに……こいつと?


それは俄かには信じられない事だった。


「嘘やあらへんで? なんやったら直接聞いてもうてもかめへんよ。まぁ俺の場合刀やのうてこいつやけどな」


訝しむ私に見せつけるように袖から出してきたのは、鈍い光を映す一本の苦無。


どっから出てきたと突っ込みたくなるそれは掌より僅かに大きく、きちんと手入れがなされているのが見て取れた。


どこか自慢げにそれを手にする山崎を見て、『ああ、この人にも一応誇りはあるんですね』と思ったのは、決して見直したからじゃない。


どう見てもちゃらんぽらんで不真面目そうなこいつが魂と言うべき道具を持ち、大切に扱うことが少し……かなり、意外だっただけだ。


その様子を見たら、土方さんと交わしたという金打もやはり軽いものではなさそうで。


感情を含むことなく純粋に問いかけたくなったのは、だからだと思う。



「……貴方は何故そこまでして此処に?」


遊んでいるだけだと思った。


大した志もなく、飽きればまたすぐふらふらと出ていくだろうと思っていたのにどうして魂まで預けられることが出来るのだろう。


すっと笑みの消えた顔からはやはり何の感情も読み取れない。


真っ直ぐに見据える私の視線の先で、そいつはただ静かに屋根に長い影を作っていた。