ふと上を見やれば、箒で掃いたあとのような細く薄い雲が空の高くに浮かんでいた。


彼岸を過ぎた頃から少しずつ涼やかな風が吹くようになり、日差しのある日中と朝晩の寒暖差が目に見えて大きくなってきた今日この頃。


通りを行き交う人々の着物は袷に代わって、京の町はすっかり秋の色を呈している。



あのあと。



屯所に戻った山崎は本当に土方さんにただの風邪だったと報告した。


去年から何かとお世話になっている南部先生の信用は厚い。少しばかり訝しそうにしていた土方さんも、戻りが遅いと小言を漏らしただけで納得した。


戻りは……うん、遅かったけれども。


金打ちを交わした二人だ、もしかしたら土方さんだけには言うんじゃないかと思っていた私はちょっと、びっくりした。


と、同時に嬉しかった。


山崎のあの言葉は本当に本当なのだと思えたから。


帰されると思ってた。
帰って、養生しろと。


だから、何も変わらず極普通に背を押してくれたあいつの言葉が凄く嬉しかった。


これまでも軽い症状の病人を診るのは山崎の役目だった。あいつがついてくれるなら皆にも誤魔化しやすくなる。


実際、時折纏めて手渡される薬は山崎が南部先生から預かった物らしい。


恋仲だと周知された今、二人でいても周りは至極当然とそれを受け入れている。


病が治った訳ではないけれど、それでも当面の現実的な不安は幾分軽くなった。


それに……。




「沖田」