「っ」
軽く吸い付くだけの口付け。
血で濡れた唇はいつもと違って仄かに苦くて鉄臭い。
けれど嫌ではなかった。
寧ろ庇護欲のようなものに駆られ、全てを舐めとってやりたいとすら思える。
「ほら何も変わらへん」
不安に満ちた沖田は今にも溢れそうな感情を必死に押し止めるかのように、眉間に皺を寄せていた。
それでも一度だけ泣きそうにくっと目を細めたそいつは、自ら唇を重ねてきて。
また、血の味が広がった。
怯えているのか遠慮しているのか、僅かに身体を離して俺を見た沖田の唇を再び食らう。
父母の血によるとも金持ちの病とも言われる労咳は、移る移らぬもはっきりとしない。
亡き父母から継いだのか副長から貰ったのかは定かではないが、幾度と交わった俺にはもう関係のないこと。
拒む理由など、ない。
昼間なのに薄暗く、どこか澱んだ裏長屋。
蒸した空気で触れ合う肌は心地いい程滑らかで、熱に濡れたそれはしっとりと指に吸い付く。
いつもより距離が近い気がするのは狭い部屋の所為なのか。
向き合い繋がるその柔肌を含めば、絡み付いた腕が益々距離をなくして俺を締め付けた。
甘やかな嬌声。
感度の良い身体。
これまでと何も変わらない。
ただ、すがるように俺を向く愁いたその眼だけが酷く儚く甘美に、俺達を煽った。