飼い猫と、番犬。【完結】


副長──今ここでその名を出したのはあえてなのだろう。


何も考えていないかのように見えてもきっとこいつは馬鹿じゃない。へらへらした表情の裏では一体何を考えているのか。


こんな堂々とした間者(スパイ)はいないとは思うものの、それすらこいつによって思わされているのではないか──そんな疑念すら湧いた。



「……あの人と何を話したんです?」


土方さんは大雑把なところもあるが、根は疑り深い慎重派だ。普段ならこうも易々と入ったばかりの人間を信用することはない。


脅される、ということも有り得ない。あの人はそんなものに屈服しないだろうし、あの様子からいってこいつを信用していることは確か。


勿論強いだけでは取り入ることなど出来ない。言葉巧みにといったってあまりに短期間過ぎる。


なら、何故?



「別に可笑しなことはなんもしてへんで」


私の頭を覗いたように、山崎が笑う。


二つに折っていた腰を真っ直ぐに伸ばして目の前に立つと、柔らかく首を傾げた。


「俺の人柄の良さや」

「いい加減削ぎ落としますよ?」


真面目に答えを待った私が馬鹿でした。


かちりと鯉口を切った私に、そいつは不服そうに口を尖らせる。


「ややわぁー可愛い俺の可愛い冗談やん」


やっぱりただの馬鹿かも……。


相手にするのもしんどくなって、これならあの場で土方さんに聞けば良かったと今更ながらに本気で頭が痛くなった。


今日初めてあの馬鹿三人組を可愛く思えましたよ……。




「なぁに、ちょーっと金打交わしただけや」