「ごめん、良いんだ、わかってるから」


さっきの言葉を繰り返すようにして笑って、平助は山崎の方を見た。


そこに感情は見えなくて。
少し離れたあいつをただ真っ直ぐに見つめている。



「……でも、あの人はやっぱり大嫌いだからちょっと行ってくる」


次に私を向いたその顔は少年のように無邪気ないつもの平助。


「あ」


一度決めると行動の早い平助は、結局私の言葉を待たずにてててと駆けていった。


間もなく始まった二人の激しい手合わせを内心複雑な気持ちで眺めながら、少しだけ我慢していた咳をそっと溢した。



多分、否、間違いなく一番辛いのは平助だ。


私だって花街に通う土方さんに同じような感情を抱いていた。わかってたって、わかってるからこそもどかしくてもやもやする。


でも、だから私はやっぱり何も言っちゃいけない。


平助の気持ちに答えられない以上、私にそんな資格はないのだ。



……でもこれは本当に止めてもらわなければ。


赤い痕が残るだろう首筋に手を触れる。


組頭たる者がこんなものを堂々と晒して組の風紀を乱す訳にはいかない。


仄かに熱の甦った気がするそこに軽く爪を立てた。


消えて欲しいような、
欲しくないような。


少し迷って傷を残せなかったのは、久し振りに会ったあいつの想いが見えるようなそれを消したくないと思ってしまったから。


逢いたかったと、珍しく甘えたあいつが物凄く嬉しかったから──




「……はぁ……こほ」


そんな自分に溜め息を溢し。


やっぱりここだけは付けないようにしてもらわなければ。


改めてそう決意した。