朧な夜だった。



どこまでが現で、どこからが夢なのか。その境目が酷く曖昧な夜。


あいつが触れる度にそこから熱が拡がって頭の奥が痺れた。


自分のものとは思えない甘い声が漏れた。


私に触れる指も唇も恐ろしく優しくて、時に強引で。味わったことのない感覚が私の身体を支配した。



『奏』



何度も呼ばれたものとは確かに違うその響きが言い様もなく擽ったくて、嬉しかった。


女として唯一親から貰ったそれは土方さん以外誰からも呼ばれることはなかった。


私は『沖田総司』──そう思って生きてきた筈なのに、あいつが名を口にした途端私の中で何かかポロポロと崩れていった。


漸く、本当の私に戻れた気がしたのだ。


あいつの言葉が、手が、唇が、私を優しく女に戻してくれる。


嬉しかった。


敵わないと思った。


大嫌いだった筈なのに、いつの間にか私の中でこんなにも大きな存在となっていた。


愛しく、なっていた。


あいつが求めるから身体を許そうと思ったんじゃない。


私が、あいつに抱いて欲しいと思ったのだ──

















昨夜の熱が嘘のように消えた体。布団からはみ出た顔はすっかり冷えて微睡みを邪魔する。

まだ薄暗い朝の空気が肌に痛かった。



「こほっ」

「……寒い?」