秋も深まってきたこの頃。


朝の冷たい空気の中、稽古に励む男達が集まる道場だけは籠った熱気に包まれていた。


彼方此方から響く掛け声、体から立ち上る湯気。


此処にいるのは元々竹刀を握ってきた連中ばかり。その目は皆一様に真剣だ。





「止め!」



一くんの凛とした声にハッとして手を止める。


気付けば目の前では一人の隊士が丁度尻餅をつく瞬間で。
打ち込み稽古(上級者がわざと隙を見せて下級者に打ち込ませる稽古)だというのに無意識に本気で返していた事に気付く。


突きを放った感触だけが微かに手に残っていた。






「大丈夫か?」


礼を終えた私に一くんが小さな声で近付いてくる。


あれから丸三日が過ぎた。


あの夜の事は一般隊士には伏せられたけれど、それでもこの三日全ての隊務から外された私は、稽古も同じく三日ぶりだった。


一くんの言葉は単純に体の事を聞いているんじゃない。


「はい……すみません」


横っ腹はまだ痛みが残るものの動けない事はない。


あまり長く隊務を離れるのも不自然で、少しだけ強く言って戻してもらった。


それなのにぼーっとしていた自分に溜め息が出る。


私の役目は指南役。相手の動きはよく見ていなければならないのにぼんやりしていた上に逆に一本まで取ってしまうなんて本当駄目駄目だ。


「感覚が戻るまではやり辛いだろうが稽古中だ、わかるな?」


一くんに皆まで言わせちゃいけない。戻ると言ったのは私なのだから。



「はい」



あーもう、ちゃんとしなさい私っ。