飼い猫と、番犬。【完結】


とはいえ汚れているのはほぼ着物で、あとはそこからはみ出たところだけ。


俺が戻る前に汚れた袴だけは脱いでいたそいつは、長着を身に付けたまま器用に体を拭きあげていく。


俺がやっても一緒やんか。


むすっと顎に手をつきながら密かにそれを見届けると、気付かれないよう静かに近付き手を伸ばした。





「俺を呼んだらすぐ助けたったのに」



後ろから抱き付いた俺に僅かな抵抗をみせた沖田も、その言葉にすぐに大人しくなった。


未だ冷たい体に一瞬、俺まで震えが走る。


その冷たさに少しだけ驚いて、体温を移すようにそっと頬を寄せた。


あの時。
こいつが一言でも俺の名を口にすれば出ていってやっても良いと思っていた。


それならそれで、人が折角ケツを叩いてやったのに来るのが遅い藤堂くんが悪いのだから。


なのにこいつは誰に助けを求める事もなく、多勢に無勢のあいつらに屈しなかった。


頑なで、負けず嫌いで、気高い、女。



「……だって、いるなんて思ってなかったんですもん」

「まあ自分は絶対呼ばへん思てたけどな」


そーゆぅんやから気に入ったんやし。


ただ、呼ばないとわかっていたからこそ、口にすれば良いのにという相反する思いが湧いた。


俺の、ちょっとした我が儘だ。


膝立ちしてだらりと体重を預ける俺。すぐ側には何やら尖った唇が見える。


いたなら助けろと言われても可笑しくない状況だったと思うのだが、未だに何も言って来ないのはこいつなりに俺の考えを汲んでの事なのだろう。


それでも多少の不満が現れたその唇に、頬が緩む。



かいらし奴め。




「ほれ、こっち向き」