勝手に決めつけられた可笑しな趣向に反論しようと後ろを振り向き掛けた私を、突如風が襲った。
枝葉に隠れて狭かった空が一気に開けて、目の前には月明かりを朧に映した碁盤の町が現れる。
そして勿論すぐ側には、不敵に下を見下ろす山崎の顔も。
思わずその着物を握り締めてしまったのは、此処が塀の上だと気が付いてしまったからだ。
「んなとこでちんたらしとったらまたこれが風邪引きよるわ。こいつの怪我は隊医の俺が診るさかい自分は此処の始末と報告、よろしゅう頼むで」
「ちょっ!狡っ」
「今回動いたんは俺だけや。責任とるんやろ?ほな後始末しかあらへんやん。それに、女子の体これ以上冷やしたあかんと思わんか?」
口八丁とはまさにこいつを指すに違いない。
返事なく黙り込んだ平助は言葉を返せなくなったんだろう。
きっと私でもそう言われたら黙ってしまうだろうから。
本音を言えばまだ平助と話したい気持ちもあるけれど、ああ宣言された後では何を話して良いかもわからないし、確かに寒くて痛くて砂まみれ。
何よりこの高さで暴れる選択肢は私にはなかった。
「ほなよろしゅうに」
「っ、平助!」
代わりに名を呼べば、見上げていたその顔が私を向く。
正直下を向くのも結構怖い。
でもこのまま別れるのだけは嫌だったから、恐怖に乾いた喉に唾を流し込み、奥歯を噛んだ。
「その、今日は有り難うございます。……また!」
本当に、思った以上に嬉しかったのだ。久々にその自然な笑みが私に向いたことが。
恋慕の情ではないけれど、やはり平助は私にとって大切な人。
だから、『また』。
そんな私の想いが伝わったのかはわからない。だけど、
「ん、また明日。おやすみ総司」
柔らかに細められた目は以前と変わらなくて。
やっと私も、笑う事が出来た。


