飼い猫と、番犬。【完結】



……ええと。


思わぬ反応に怒りすら消える。


ぴたりと抱き付く平助の顔は見る事は出来ないけれど、纏う空気は穏やかでどこか楽しげだ。



「もしかして総司、巧く騙されてるんじゃない?妙な術かけられちゃってたりとかさ」

「……否定は出来ません」

「そこは否定せぇ。ちゅうか俺は何もんや」


勝手に会話に混ざってくる山崎は取り敢えず置いといて。


前みたいに明るく普通に喋りかけてくる平助に、じわりと胸が温かくなる。


理由なんかは二の次で、ただそんな平助に少しだけ解けた緊張に目の奥が熱くなるのを堪えて、未だ離れないその着物を無意識に握り締めた。



「それなら俺にも、まだ入り込む余地はあるかもだよね」



ちゅ、と柔らかな感触が頬に触れる。


それが平助の唇だと気付くのに時間は掛からなかった。


素早く何度も瞬きをしながら、少しだけ離れた平助の顔を見やれば、月明かりに照らされたその顔は人懐っこい満面の笑みを湛えていた。



「我慢するのはもう止めにするよ。恰好悪くたってもう失うものは何もないんだしね。だから俺は諦めない事にするから。宜しく」


……は、い?


決ーめた、と尻尾を振る仔犬の様に再び抱き付いてくる平助に虚を突かれて固まる。


元通りだけど元通りじゃない。


言葉の意味を理解した私は頬に触れた唇の感触を思い出し、一気に血が逆流した。