その日は非番だった。


からりと澄んだ青色がどこまでも続く気持ちの良い空。けれども町を抜ける風はすっかり北からのものにとって代わり、町ゆく人は皆暖かな袷を着込んでいる。


気づけば屯所にある大銀杏も見事な黄色に色付き、所々に落ちた実が独特な香りを放っていて。


時折通いの女中さんがせっせと拾っている姿を見ることが出来た。


秋だなぁとは思うのだけど、あの何とも言えない微妙な苦味はあんまり好きじゃない。


前はこっそり平助にあげていた銀杏の実。今はお茶で流し込むようにして何とか自分で食べている。


そんなご飯刻の小さな変化さえも酷く身に染み入るのは、秋という季節が淋しさに拍車をかけているのかもしれない。


鮮やかに色付いた木々が葉を落とせば、町はくすんだように色を失う。


次にやってくるのは寒く、憂鬱な季節。


いつもよりも感傷的になるのは女だけなのだろうか。



「……はぁ」


一人門に向かいながら、カサカサと寂しげに音をたてる庭木を見つめて溜め息をつく。


そんな時だった。



「あ、沖田組長!」



不意に後ろから声が掛けられた。


その聞きなれた声は振り向かなくてもわかる。同じ組故に近頃何かと行動を共にすることの多い山野さんだ。