飼い猫と、番犬。【完結】


男であると決めたのに、女を馬鹿にされてこんなにも腹立たしく感じるのは、やはり私自身まだそれを引きずっているからなのかもしれないけれど。


それを眼前に突きつけてきただけのこいつに全ての怒りをぶつけるのはどこか筋が違うのかもしれないけれど。


それでも、蓋を開いたこいつに湧く嫌悪はどろどろと私を支配する。



「もう、良いです」


女だとばらしたければばらせば良い。私は私です、文句がある奴は幾らでも相手してやりますよ。


貴方の脅しになんてのってやるもんか。


こんな最低な男に一体何を怯える必要があったのか。


この男が口にしたのはあくまで憶測、過去の事実を覗いた訳じゃない。


のせられるな。きっとこれはこいつの手口。見透かされたような気がするだけだ。


こんな馬鹿、どうせ大した目的もなく遊び半分で近づいてきたに決まってる。


こんな男、まともに相手をするだけ無駄なんですよ。



じわりじわりと染み渡っていく怒りに、もう体裁などどうでもよくなった。


強く擦り過ぎたのか、少し熱をもった唇をギュッと噛んで立ち上がると、同じく土間に唾を吐いていたそいつを見下ろす。


最後に、今内に渦巻く感情だけは吐き出しておかねばどうしても気がすまなかった。



「私は、上洛する前からずっと道場に立つ時は袴を履いて竹刀を握り沖田総司でした。今も私は私の意思で刀を握り彼処にいます。あの人は関係ない」


道場に出入りしていた皆は女だと知っていたから今より自由はあったけれど、それでも、私は強いられてこんな所までついてきたんじゃない。


「何も知らないくせに、知ったような口叩かないでください」


本当、胸糞悪くて反吐が出る。