「んっ」
それが口付けだと気付いた時にはもう遅くて。
きつく抱え込む腕がその中から逃れることを許さなかった。
必死に身を捩り胸を押しても、そいつは離れるどころか尚も角度を変えて深く唇を重ねてくる。
「ふ……んんっ」
放せ、そう叫びたくても執拗に絡め取られた舌にまともな言葉すら紡ぐことが出来ない。
チビのくせに。
ひょろっこいくせに。
私がどれだけ剣術を学び強くなったって、やはり力では男に敵わない。
こういう時に自分は女なんだと改めて思い知らされてしまう。
嫌になる。
男に生まれなかった自分が。
男になりきれない自分が。
女を捨てきれない、自分が。
嫌で、嫌で、仕方ないんですよ……っ!
「ぐっ!?」
苦しげな声を漏らして漸く離れたそいつは、口許を掌で押さえて、目だけで不満を訴えてきた。
自業自得だ。
「……流石に素早いですね、噛み切ってやろうと思ったんですが」
「ちょ、えげつないこと本気で言わんでやっ」
「だって本気ですから」
口内に残る不味い血を唾と共に土間に吐き出して、袖口でごしごしと唇を拭う。
まだ生々しく残るあいつの感触を今すぐに消し去りたかった。
こんなの、何の慰めにもならない。
力付くで女をねじ伏せただけの最低な行為。
女を馬鹿にした、ただの屈辱だ。


