「……驚いた」



俺の部屋にある薬種を見た奥医師こと松本良順が、ぽそりと言葉を漏らす。


「これだけ揃ってりゃ今すぐでも漢方医の看板が出せる。お前さん一体何もんだい?」


豪快に笑って人の背を叩くその人は、奥医師だというのに微塵も鼻に掛けた様子はなく、驚く程に気さくでうちの局長を彷彿とさせた。


二人が気が合うのも妙に頷ける。


が、ちょっと痛い。



「ただのしがない町医の倅ですわぁ」

「にしては少々毒草が多いな。附子(トリカブト)、朝鮮朝顔、他にも」


一歩距離を置いた俺から離れたその人は、隅に纏めてあったそれらの薬種を手に取り俺を振り返った。


……流石に目敏いな。


勿論、少量ならそれらも確かに薬となる。


故に然程苦もなく手に入る物ではあるが、匙加減次第では人をも殺れる猛毒にもなる。


量によっては毒とも気付かれない、中々、便利な物だ。


まさかこんな所まで付いて来られるとは思っていなかったから隠す余裕もなかったが、だからといって焦る必要もない。


言い訳はちゃんとある。



「たまたまですわ、あんま使う機会もあらへんさかいにどーも減りが悪ぅて」


にこりと笑って小首を傾げた俺に、その奥医師も目を細める。


家茂公の気に入りだというだけあって、人の良さが滲み出た裏表のない笑みだった。


「もしかして親父さんは近江国の出じゃないか?」