その一言に我知らず手が止まったのを後悔しても遅かった。
「その顔、どんぴしゃりやろ?」
元々刀を振るうには狭い部屋、強引に引き寄せられた弾みで壁に当たったそれは、呆気なく手から零れ落ちた。
「へぇ、案外いじらしやん。男の為に男のふりしてあっこにおるんや?」
「違っ!」
「そやなぁ、確かに恋仲には見えんかった。えろぅ訳ありな臭いぷんぷんやったもん」
あの日のことを言っているんだろう。
目の前で意地悪く笑むそいつの眼に全てが見透かされている気がして、チリチリと胸が軋む。
こいつは危険だ。その黒い双眸が私を暴いていく気がした。
見ないようにと閉じ込めた、私の過去を。
「副長はんもなかなか悪いお人やなぁ。自分の気持ち知っててつこてはるんやろ? 人斬りに」
すぐ近くにあるそれに、心の臓が嫌な音を奏で始める。そっと顎を撫でた手があまりに優しくて、背筋がぞくりと粟立った。
違うと言いたいのに私を捉えて放さないその視線に、何故か喉が震えて声が出ない。
嫌だ。見るな。覗かれたくない。
知らぬ間に指先に力が籠る。
駄目だ、今すぐこいつから離れなければ──
「……慰めたろか?」
一瞬、何を言われたのかわからなかった。
不覚にも突然触れた温もりを心地良いとも思ってしまった。
再び引き寄せられて視界を闇が覆った直後、生暖かい感触がするりと口の中に入ってきて。
瞬間、何かが弾けたように一気に頭が覚醒した。
な……っ!?


