「言ってろ。まだわかんねぇぞ、さっさとフラれろばーか」

「あ、酷」


フン、と鼻を鳴らしてふんぞり返る副長はやはりどこか楽しそうでもあり。


「……考えておく」


その想いもまた、この暮らしの中でゆっくりと静かに違うものへと変化しているのかもしれない。


刻とは残酷でいて、優しい。






一応、待っていようとしたのだろう。


やっと戻った部屋の中では、角に凭れた沖田がスースーと穏やかな寝息をたてて寝落ちていた。


……やっぱりな。


無防備に寝顔を晒す様子は余程疲れているのか、危機感が欠けているのか、信用しているのか。


襲てまうぞコラ。


その全てに当てはまりそうな沖田を白い目で見つめて、頬に触れる。


さらさらとした、確かな女子の手触りだった。


生まれる場所が違えば、どこにでもいる普通の女子として何事もなく幸せに生きたのだろう。


興味本意は嫉妬、同情に変わり、それがまたいつしか恋慕の情を芽吹かせた。


過去のことから一人を想うことにあまり積極的になれなかったが、奇しくも藤堂くんとのあれに背を押された形になってしまった。


けれどまぁ、改めて宣戦布告してしまえば思いの外すっきりとするものだ。



「んなとこで寝とったら風邪引くっちゅーねん」


そんな自分を鼻で笑って、沖田の体を抱き上げる。


僅かに身動いだそいつだが、結局布団に下ろしても起きなかった。


自分が悪いねんで?


起きて驚けと密かな念を籠めてその額に軽く口付ける。


狭い部屋。一組の布団。眠りこけた沖田。


俺は別に悪くない。


朝の反応を楽しみにしつつその横に横たわると、俺もまた目を瞑った。


誰かの隣で眠る、それも中々良いものだった。