飼い猫と、番犬。【完結】







……なに?



唇が熱い。


夜の闇とは違う何かが目の前の視界を塞いでる。


何がそんなに悲しくて、何がそんなに狡いのか。刹那の疑問が再び浮かぶ。


決して大きくはなかった平助の掠れた声、でも確かな叫びを聞いた気がした。


唇が、熱い。



──口付け、されてる。






「ゃ、平……」


逃れようともがいてみても、その手には益々力が籠められる。


一瞬離れた唇もその力には敵わなかった。


狭い部屋、抗い身を捩るうちに気付けば壁に追いやられ逃げ場を失っている。



──どうして



この状況に頭がついていかない。


平助を男として意識したことなんてない。だからこそ『ずっと見てた』という言葉が動揺を誘う。


いつから?京に来る前?


いつだって平助には何でも話してきた。勿論……土方さんの事も。



『ずっと』


『いつから』


『どうして』



ぐるぐる回る思考、呼吸さえも飲み込む様に繰り返される口付けに息が出来なくて苦しい。


でも、抵抗出来ない。


だってきっと、私は平助に酷いことをしてきた。私が話す土方さんの話を、これまで平助は一体どんな思いで聞いていたのだろうか。


そう思えば壁に押さえ付けられた手首よりも胸が、痛い。



上手く息が吸い込めない苦しさもあって力が入らない。


少しだけ緩んだ平助の力に、体が壁を滑り落ちた。


それでも唇は離れてくれない。


覆い被さる様に、平助が身を寄せてくる。



嫌だ──怖い。



初めて、恐怖を感じた。


それと同時に脳裏に浮かんだのは、助けてなんてくれる筈のない、あの人だった。