飼い猫と、番犬。【完結】


隙は見せられない。


見せたら負けだ。


左之さんとの打ち合いを見た。私自身も竹刀を合わせた。


こいつは強い──それは心底不本意だが認めざるをえなかった。


そしてこの気配の消し方……今だってこうして目の前にいるのに瞬きの間に霞み消えてしまいそうな錯覚すら覚える。


殺気など全く感じないのに掌が湿るのは、掴み所のないその薄気味悪さ故だろう。


私居合い抜きはあまり得意でないんですけどね……。


けれど来るなら殺らねば。


折角ついてきたんです、こんなところで終わるなんて真っ平ですよ。


頭の中で、転がった刀を拾い一気に引き抜くところを入念に描く。


呼吸を整え、その灯りを映した髪の毛一本の動きすら見落とさないように意識を集中させた。



それなのに。



「そないピリピリせんかてええやん、仲良うしようや沖田助勤?」

「っ、わ!?」


突然火が消え視界が暗転した次の瞬間、勢いよく足を払われ体が中に浮いた。


っ、倒れ……──




「ぐぇ」


背に受ける筈の痛みに備える間もなく胸ぐらをひっ掴まれたお陰で、首から先だけがガクリと揺れる。


首っ! 絶対筋違えた!


「また色気のない声やなぁ、蛙かっちゅーねん。仮にも女子やったらここは可愛くきゃっとかの方がええと思うで?」


その雑な扱いに反してゆっくりと下ろされたのは良いが、真上から降ってきた呆れた声には頬がひきつった。


「う、煩い! 貴方には関係な」

「んーやっぱ微乳やなぁ」


……い。