屯所は既に静かで、何処かから聞こえてくる鼾が細い廊下に響いてる。
朝は早い、皆もう眠っているんだろう。
そう思っていたから、部屋の前にうずくまる黒い影を見つけた時は少しだけ驚いた。
「……平助?どうしたんですか?」
「……うん、ちょっと、さ」
もしかして例の、話?
明かりの遠い夜の闇に細かな表情まではわからなかったけど、いつもより改まった固い声に何となく用件を察した私は、歩みを進めて障子に手を掛けた。
「取り敢えず中に」
それなりに大切な話だということは想像がつく。こんな所で立ち話もなんだろう。
相手はずっと同室だった平助、特に何を考えることもなく迎え入れる。
中は一段と暗く、少しだけ空気が冷たい。
トン、と静かに障子の閉まる音が背後に聞こえて、暗い部屋は益々暗くなった。
「今火を」
一先ず灯りをと、近くに置いた行灯に手を伸ばす。
けれどその手は、何もない宙をカクンと掻いた。
「あの人と、何があったの」
平助の腕が、いきなり私を抱き留めたから。
「平助?」
声の大きさは控えめだったけど、首元で囁かれた言葉ははっきりと聞こえた。
いつもの無邪気な包容とは違う痛いまでのそれに、切羽詰まった何かを感じる。
でも今の言葉だけでは一体何の事を言っているのか判断しかねた。
あの人って、誰。
「前は……嫌がってたじゃん。なのに何、まさか総司、本当にあの人と……」
回された腕がぎゅっと締まる。
それに漸く意味を理解した私は、慌てて口を開いた。


