飼い猫と、番犬。【完結】


甦るのはあの日の温もり。
あの日の距離感。



あの日の、寝顔。



湧いた熱は最早頬だけでは収まらずに耳まで熱くてもげそうだ。


けれど間違いじゃないから言い返す言葉も見つからなくて、引きつり歪んだ口をただパクパクと動かすしか出来なかった。




「自分そのおぼこさでよぉあの人相手にしとったなぁ……ま、そない元気やったら体はもう大丈夫やろ」


くしゃりと前髪が混ぜられる。


鼻で笑う憎たらしい笑みが一瞬だけ柔らかく見えた気がするけど。


それよりも、今の言葉に引っ掛かりを覚えてしまった。



「ほなまぁもー遅いし早よ寝ぇ。また風邪でも引かれたらそれこそかなんわ」


乱れた髪を撫で付け唇を結ぶ私にあっさりと背を向けて歩いてく山崎は相変わらずで、その真意はよくわからない。


言葉から心配してくれているということだけは伝わってくるけれど、ふと過った思いに、それすら素直に受け取っても良いのかわからなくなった。


だって、思い出してしまった。



あいつの向こうには土方さんがいるということを。



仮にも金打ちを交わした二人。


あの優しさは頼まれたからこそのものなのかもしれない。


もしかしたら、全ては土方さんの良い様に転がされているのかも──



そう思うと、さっきまでの熱は波が引くようにするすると消えていく。


残ったのは僅かな淋しさ。


落胆してる──そんな自分を誤魔化すように未だ手の感触が残る髪を一度だけ梳いて。


私もまた、暗い廊下に足を踏み出した。