飼い猫と、番犬。【完結】


途端に心の臓が微かに跳ねる。


だって、ふわりと香るその匂いで見るまでもなく誰だかわかってしまったから。



「自分から抱きついてくるとか今日の総ちゃんは大胆やなぁー」

「違っ!?てかちょっ、放しなさいっ!」


抱き付いてるのはそっちですからねっ!


気を抜いていたこともあるかもしれないけれど、足音も気配も全く感じられなかった。


それと対照的にこっちは駄々漏れ。此処にいたのはたまたまかもしれないけれど、待ち構えていたのは確信犯だ。


不意討ちなんて卑怯ですっ!


首筋に触れる髪の感触に、トクトクと鼓動が速まる。


自分でもよくわからないそれを悟られまいと必死にもがくと、山崎の腕は思いの外あっさりとほどけた。


「や、丁度ええねん。ほれ、じっとしぃ」

「は?」


しかし、今度は何やら首の辺りを親指でぐりぐりされる。


「何を」

「咳はもー出ぇへん?」

「え?あ、はい」


どうやら診察らしい。


そう言えば薬がなくなったら一度来いと言われていたことを思い出す。


最近はもうすっかり元気だったから綺麗さっぱり忘れてた。


もしかして、それで気にして?


そう思うと多少の申し訳なさを感じると同時に、何となく腹の底がむずむずする。


ただの責任感かもしれないけれど、そこまで気にかけてもらうと言うのはやはり、どこか擽ったかった。


「……あの」

「ん、熱もないな。ほなええわ」


一応、謝ろうとしたのだ。


なのに不意に頭が引き寄せられて、視界がぼやけた山崎で埋め尽くされるとそんなことは飛んでった。


くっついた額と額。


熱を診ているのだとわかってはいても、この距離はちょっと、無理。