人差し指をくるりと回して口許に立てると、そいつは垂れた目を真っ直ぐに合わせてきた。
何度見ても奥の見えない、闇夜の目を。
「確かあの日は……そや、雨が降っとったっけなぁー赤ぁい、雨が」
ニィ、とその薄い唇が妖しく弧を描く。
どこか芝居染みた、耳に絡み付くねっとりとしたその言葉にあの日の記憶が蘇った。
仲間の血にまみれた、あの湿った夜の記憶が。
それと同時に、小さな棘のように微かに引っ掛かっていた違和感の正体が、漸く掴めた気がした。
あの時一瞬雨音が変わったのってこいつ──!?
「ま、仕事の途中にたまたま通りかかっただけなんやけどな? 女子か思たらどでかい男の首スパァンはねてまいよるし、あまつさえ一緒におった綺麗なねぇちゃんも……や」
びっくりしたわーとまた軽い調子に戻ったそいつに、私は足許に置いた刀をちらりと盗み見た。
奴の真意が見えないことに不安を覚えたからだ。
裏を生業にしているのならそれなりに黒いこともやっているのでしょう。あの日の惨状をこうして平然と語っているのがその証拠。
けれど、何故うちに来て私に近付き、こうもあっさりと手の内を話しているのか。
忠告か牽制かはたまた排除か。もしかしたら私を使ってうちそのものを貶めようとしているのかもしれない。
女が刀を持つことを嫌悪する輩は数多といる。
『沖田総司』が女だと……局長達がそれを知って置いていたと知れれば、その影響は少なくはない。
それだけは何としても阻止しなければ。
「……それで、貴方は何がしたいんですか?」


