「ーーっ」


あの日、不覚にもあいつ──山崎に思わぬ醜態を見せてしまったことを思い出す。


泣きながら抱きつくなんて何度思い出しても恥ずかし過ぎて胃が痛い。


湧き上がる羞恥に思わず声が漏れそうになって、慌てて口許を押さえた。


あーやだやだっ。


そんな自分に悪態をついてみるけれど、確かにあいつの言葉があったからこそ救われたのもまた事実だ。


自分がいることの意味がわからなくなって、考えることすら億劫になって、何もかもが嫌になって逃げ出したくなったあの日。


あいつは、酷く優しかった。


言い方こそ明け透けなものだったけれど、だからこそ私も素直に受け入れることが出来たように思う。


感情のままに生きているだけの自由なあいつの言葉は、偽りなく本心なのだと思えた。


だから、与えられた温もりにすがってしまった。


あんな奴に。


そうは思えど、あの時の優しさは嘘じゃない気がするから。



しかも……しかもだ。


いつの間にか寝てしまったらしく、あろうことかあいつの腕の中で朝を迎えるという嫁入り前の女子にあるまじき目覚め方をしてしまった。


や、もう嫁になんて行かないけど。


起こさないようにしてくれたのか、ただ寝落ちてしまったのかはわからないけれど、壁に凭れて眠る山崎は私を抱いたまま気持ち良さげに寝息をたてていて。


間近にあったそれは、寝起きの心の臓にはかなり、色々、悪かった。