気が付けば俺の手を両手で握る沖田。


すがるように必死に爪を食い込ませるそいつは、仄かな橙の灯りを滲ませた目を、ゆらゆらと揺らした。


「で……もっ、私さえ、いなければ」


そんなことまで考えていたのかと、正直驚いた。


けれどこいつの出自を考えれば、それもまた仕方のないことなのかもしれない。


必要とされなかった自分。


その心の根底にある痛みに触れた気がして、つい俺まで息が詰まってしまった。




「……阿呆、誰もそんなん思てへんて。そんな風に憎んどるような相手に介錯なんて頼まへんわ」

「で、もっ」

「自分の言うとることはあの人の武士としての死に様を否定しとるだけや。……それで、ええんか?」


そんな思いを振り払うように穏やかに言葉を紡ぐ。


何をどうしても死んだ人間は戻らない。身も蓋もない言い方をすれば、要は心の持ち様だと思う。俺達がどう捉えるかで、その死は尊厳あるものになる。


結局のところ、大切なのは死んだ人間ではなく残され生きる俺達なのだ。




ここにきて、漸く沖田と目が合った。


見開かれた目に溜まった涙に一瞬、目を奪われる。


それは僅かな時間光を湛えて揺れたあと、ぱたぱたと粒になってその着物を濡らした。


初めて見る涙。


首を横に振り、くしゃりと顔を歪ませて泣くそいつはまるで子供のようだった。