飼い猫と、番犬。【完結】



「……香取流?」

「ま、そん中でもうちらみたいなんは極一部やけどな」


便利な奴ってそういうことですか……まぁ武術を極める者の中にはあえて影に生きることを選んだ人達もいると聞いたことはありますが、それが……。


初めて見る人種に思わずその頭から足先までじろり視線を這わせる、


と。


「ややわーあんまじろじろ見んとってや、何か恥ずかしやん」

「黙れ気持ち悪い」


くねくねするな。


いやいや土方さんっ! 確かに便利は便利かもしれませんけど、こんな頭の軽そうなの絶対信用出来ませんよ!


今だってこいつ私のあとをつけてっ……。


どうにも頭にくるお茶らけた言動に眉間に谷間を刻み、はたと気付く。



「……貴方、初めから気付いてたんですか」


そう、さっきこいつは『やっぱり』と言った。ならきっとあの時の笑みはそういう意味だ。


裏に身を置く人間はその特殊な職種柄『眼』に長けていると聞く。初見で見抜かれたとしてもまぁ可笑しくはない。


それにそれなら納得も出来た。女が男に扮して刀を握っているなど本来有り得ないのだから。


まぁ、だからといって気持ちよくはありませんけどね。


馬鹿にされたことには変わらないのです。


新選組は女人禁制。どうせこいつも私が女だからと文句でも言いに来たんでしょう。


でもこれは局長も知っていること。


貴方ごときに何を言われようが私は帰る気など微塵もありませんからね。


舐められて堪るかという思いに自然と顎を上げ、不満を押し隠すことなく睨み付けたのに、そいつは笑んだままピクリとも表情を変えない。


間違いない、嫌な奴だ。


「ん、入隊ん時にはせやろな思たな」


やっぱり──


「でも、初めて見たんはも少し前やよ」