「すみません」
足元に落とした視界の隅に、頭を下げた山南さんの姿が見えた。
けど、謝るくらいなら逃げて欲しかった。
今口を開けば間違いなくそう叫んでしまうだろう。目の奥にじわりと灯った熱を無理矢理飲み込み、奥歯を噛み締め後ろに回る。
震えそうになる体を、掌に爪を立てて何とか堪えた。
介錯人が名誉だと、どこの馬鹿が言ったのか。こんなの、本人に頼まれなければ誰だってやりなくない筈だ。
けど、どれだけ泣き言を言ったって、刻は待ってはくれない。
右、左と山南さんが袖を脱ぎ、目の前に置かれた短刀を握る。どうしてこんな時まで彼の所作は美しいのだろう。
騒がしかった道場でいつもにこやかに笑っていた彼。何も知らない私に沢山の事を教えてくれた。
どうしてこうなってしまったのか。
私が無理を言って京についてこなければ、この人は今も見つからないまま江戸に向かって歩いていたかもしれない。
私さえ……いなければ。
そんな後悔の念に沈む私の目の前で、山南さんは躊躇いも見せず腹へと刀を突き立てた。
小さく声を漏らした山南さんの肩が小刻みに震える。
──嫌だ。
呼吸すら忘れ、ただ一文字に手を引いていくその背を見つめた。
もう、限界だった。


