少し歩いて辿り着いた一軒の旅籠には、誰かが来るとわかっていたように部屋が二つ取られていた。
その内の一部屋で向き合って座った私達。先に話を切り出したのはやはり山南さんだった。
「京へ戻ります」
「どうして!?」
声に力が籠る。
ゆらゆらと揺れる行灯の明かりがその人の微笑みを儚く見せて、一層の不安を煽った。
「決まりですから」
「私はっ、ただ話がしたかっただけなんです!連れ帰るつもりなんてありません。だからこのまま逃げてください」
感情のままに前のめりに手をついた私にも、山南さんはゆるりと首を横に首を振る。
「あの紙を見て、貴方は私を見つけた。私は賭けに勝ったのです。ですからけじめはきちんとつけなければなりません」
賭けに……勝った?
意味がわからなかった。これを賭けというなら見つかった今、賭けは負けた筈だ。
何を以て勝ったとするのか。そんな疑問に私が言葉に詰まると、山南さんは少しだけ寂しそうに笑った。
「貴方はあの紙を信じてくれた。私の声がまだ届くのだと、思わせてくれた。私はそれだけで満足です」
この人は。
きっと他の誰もが思う以上に、愁いていたのだ。
初めは確かに皆と志同じくして京に上った筈。
けれど周りが変わってゆく中でぽつりと取り残される孤独感。総長という立場ながらに己の意見が否定され続ける虚無感。
それらは優しい彼の心をじわじわと抉り、追い込んでいたのだ。
その思いが手に取るように伝わってきたのは、さっき私も似たようなことを感じたからかもしれない。
そして、私のとった行動がこの人の心を固めてしまった事実が、酷く胸に痛い。


