残された紙を信じるなら、山南さんは恐らく近江(現滋賀)へと向かった筈だ。
陽動かもしれないという声もあったけれど、私にはそうは思えなかった。嘘をつくくらいなら初めからそんなもの残していかなかったと思うから。
馬を走らせ、中山道(五街道の一つ。江戸と京を結ぶ)を北へ。
昨夜の内に京を出たのなら、もう幾つかの宿場を越えただろう。何処かで馬を拾ってなければ良いけれど。
そんなことを思いながら入ったのは、京を離れてすぐにある大津宿。
馬を降り、沢山の人が行き交う活気溢れた賑やかな宿場町に足を踏みいれてすぐの所に、その人はいた。
「見つかっちゃいましたね」
おどけて肩をすぼめる山南さんは久し振りに見る穏やかな顔で、見ているこっちが胸が痛くなる。
長屋に凭れ、京への出入り口となる此処に堂々と立っていた。それはどう考えても逃げ隠れしてるというより、私を──追っ手を、待っていた。
「どうして……」
言葉が続かなかった。
聞きたいことは沢山あるのに、あまりに突然過ぎる再会に、上手く言葉になって出てこない。
聞くのが、怖い。
そう、まるで憑き物が落ちたようにすっきりとしているその人が既にこれから起こる何かを悟っている気がして、私は無意識にも一瞬、追究を避けたのだ。
「此処ではなんですから」
そんな私に山南さんは困ったといった様子で苦笑いする。
そして立ち尽くす私から手綱を奪うとそっと手を掬って、ゆっくりと通りを歩き始めた。


