「ーーっ!?」
一つに結わえていた髪を下ろし、簪(カンザシ)で簡単に纏めたところで、誰もいない筈の部屋に男の声が響いた。
考える間もなく腰に手がいくのに、着替えたばかりの今、当然そこに二本の刀はない。
振り向いた視線の先でしゃがみこんだそいつは、ゆらりと揺れる灯りに黒い影を作りながら掌に顎を乗せて笑った。
「おーこわ。すぐ暴力に訴えようとか女子のするもんやないで?」
『女子』
それを強調するように私の目を見つめ、にやりと口許に弧を描かせるその男は、やはり憎たらしい。
「……覗きが趣味の貴方に言われたくありませんよ、山崎さん」
「いやーそこは男の性(サガ)やん、しゃあないわ」
堪忍堪忍なんてへらへら笑うその顔を今すぐ殴ってやりたいと思うのも女の性だと思いますが。
と言うか、いつからいた?
入った時は確かに一人だった。戸を開ければすぐにわかるし、何より気配だって……。
黙って睨みつける私の考えなどお見通しなのか、そいつは垂れた目をそっと細めて天井を指差した。
「あっからこそっとな。俺の家そーゆぅん生業(ナリワイ)にしてんねん。副長から聞いてへん?」
生業って、そんなの何も……。
と眉を潜めたところでふと一つだけ思い当たることが浮かんだ。


