飼い猫と、番犬。【完結】




年が明けても風は冷たく、砂を巻き上げ枝を鳴らした。


江戸にいた頃道場を開いていた腕を買われて稽古の指南役の一人となった伊東さんも、入隊間もないからか特に目立った動きは見られない。


寧ろあの人当たりの良さで周りからの評判も上々、近藤さんに至ってはあの人を先生と呼ぶ程に気に入ってしまっていた。


流石に目下の人間にそれはどうかと土方さんがたしなめていたけれど。


そんな姿を見ていると、私ですらあれは考え過ぎではないのかと思ってしまう。


それ程までに何事もなく過ぎていた毎日に細波がたったのは、甘やかな梅の薫りが漂う冬の終わりだった。



突然、土方さんが屯所を移転させると言い出したのだ。










「……兎も角、私は反対ですから」


今日の話し合いも、山南さんはその考えを曲げなかった。


移転の話が持ち上がってから何度か持たれた話し合いは、膠着状態が続いていた。


その焦点は、場所。


土方さんが候補として上げたのがまさかの寺──西本願寺だったからだ。


『仏を祀る場に我々が入るべきではない』


頑なにその考えを譲らない山南さんに、近頃では話し合いの席でも辟易した空気が漂っていて、流石に見ていて辛い。


日に日に部屋に引きこもりがちになっていく山南さんは、すっかり周りに壁を作ってしまっている。


確かにうちも大所帯になって、部屋は人で一杯。これ以上此処に居続けるのは厳しくなってきた。


でも、ぎすぎすした今の空気は正直寂しい。


……どうなるんでしょう。


吐き出した溜め息は、もう白には染まらなかった。