飼い猫と、番犬。【完結】


上方特有の訛りのあるその声。
突如腰に回された腕が、無理矢理に私を引き寄せた。


犯人が誰かなんて勿論わかってる。


けれど微塵も気配を感じさせない猫のような登場には、やはり中々慣れるものじゃない。


び……びっくりしたっ!



「ちょっ、山崎さんっ」

「ああ、貴方が山崎さんですか、おはようございます。貴方もお話は聞いていますよ、どうぞ宜しく」

「ほーそら嬉しいなぁ、こちらこそよろしゅうに」


なのにそんな私をおいて、二人は何やら笑顔で手を握り合っている。


さっきのあれだ。


山崎の方から差し出したように見えたのだけど、あれには何か意味があるのだろうか?


というかそれより、何故か二人の空気が、黒い気がする。


あと、そろそろ腕を解いて欲しい。


何か、近い。




「ほな総ちゃん、行くで」


そんな思いとは裏腹に、山崎は更に私を抱え込むようにして体の向きをくるりと変えた。


「……は?や、私まだ顔洗ってないですし!て言うか誰が総ちゃ」

「ちょっとくらい涎垂れてたかて俺は気にせぇへんて」

「え、涎!?」

「伊東はん、ほな、また」


焦る私ごとぐいぐいとその場から立ち去ろうとする山崎が、肩越しに笑みを向ける。


「ええ、また」


それにも、穏やかに返ってきた伊東さんの言葉にも、もうこの場をあとにするしかなさそうな私は、仕方なく口許を隠しつつも伊東さんに頭を下げ、渋々、山崎の隣をついていった。










「もうっ、何なんですか一体っ!」