噂と言われると、何となく嫌な予感がする。見ただけで私だと分かるようなものなのだ、あまり良い噂だとは思えない。


昨日着いたばかりだというのに一体どんな話がこの人の耳に入っているのか。


凄く、気になる。


「ああ、ほら近藤さん──局長がね?道中よく貴方のことを口にしていたものだから」


けれど、頬を引きつらせた私に気が付いたのか、伊東さんはすぐにそう言葉を付け足した。


それなら納得出来る。


あの人のことなら容易に想像がついた。きっといつものように少しばかり美化した思い出話をにこにこと自慢げに語っていたのだろう。


それはそれで恥ずかしくもあるが、近藤さんが向こうでも私のことを思い出していてくれたことが、堪らなく嬉しい。


私が思っているように、あの人もまた私を家族だと思ってくれているのだと、実感出来るから。


そうですか、と喜びを隠しきれない顔で頭を掻いた私に、その人もまた柔和に微笑む。


その纏う空気が穏やかで柔らかくて。どことなく、山南さんに似ている気がした。



ん、悪い人ではなさそうです。



「まだ右も左も分からぬ身故、何卒宜しく頼みます」


そんな時、流れるようにすっと手を取られた。


……えと?


一瞬、繋がれた右手と右手にどう反応して良いのかわからず、固まってしまう。


「細い、手ですね」


だけど握った手へと視線を落としたその人の言葉に、やっと体がぴくりと反応した。


……もしかして、女であることも──?







「おはようさん」