平助の代わりになのか、ただの照れ隠しなのか、結局一くんに髪を拭きあげてもらい、眠りについた翌朝。


寒さの所為か珍しく早くに目覚めた私は、小さく寝息をたてる一くんを起こさないよう静かに布団を畳むと綿入りを羽織り、井戸へと向かった。


まだ少し薄暗い紫色の空、冷えきった朝の空気はどこか気持ちが良い。


たまには早起きもいいものだと思いつつ辿り着いたそこには、見慣れない男が一人、立っていた。



「おはようございます」


すぐに私に気付いたその人は、顔を拭いていた手を休め、穏やかな笑みで振り向いた。


うわ、男前。


そう思ったのは寝呆けているからじゃないと思う。


私だってその辺の男には負けないくらいの背丈はあるのに、目の前の男は明らかに私を見下ろしている。


嫌味なく細められた涼やかな目許は、いつか見た歌舞伎役者のようだった。


「おはようございます。ええと、新しく入られた方ですか?」

「ああ失敬、昨日から此方に置いてもらうことになった伊東甲子太郎と申します、以後お見知りおきください」

「あ、いえ。私は」

「沖田さん、ですよね?噂は聞いていますよ、どうぞ、宜しく」