「……阿呆らし」


ごろり、寝返りをうつ。


わかってる、これはあの感情ではない。今はまだ、藤堂くんに感じた程度のものだ。


但し同情ではなく嫉妬に近い。


夫婦(メオト)の契りを交わしながらも呆気なく離別を選んだ俺達と、夫婦の契りを拒みながらも思い続けるあの二人。


二人の想いを量ろうとしているのか、こちらに引き込もうとしているのか、はたまたその両方か。


初めはただのお遊びだった筈が、気が付けは少々意地になっているところもある。


けれどあれを見ていると、どうしてか手を差し伸べてやりたくもなってくるのだ。


あれが逆立てていた毛を寝かす程に、俺まで懐柔されてしまう。


阿呆らしいのは、そんな俺だ。






しかし、だからと言ってどうしたい、というものはない。


仕事もある、飯も食える、金子も貰える。特殊な仕事柄、狭いながらに自室までもらえた。


此処での生活は捨てるには惜しい。


なるようにしかならん。


考えているうちに段々とどうでも良くなってくるのは俺の悪い癖だと思う。けれど小さいことを考え続けるのはやはり性分には合わない。


結局のところ、複雑に絡んだ幹部連中の想いも俺には関係のないもの。


皆好きにすれば良いと思うし、俺も好きにさせてもらう。


確証のないものに思考し続けたたって時間の無駄なのだから。



考えることを手放せば意識は簡単に闇の底へと沈んでいく。



──それにまぁ、落ちてみんのも悪くない。



微睡みの心地良さにそんなことを思ったのを最後に、その日の記憶はプツリと途絶えた。