「もう副長はんらが表囲てはるさかいんなこた心配せんでええねん。わかったら大人しせぇ、傷もあっちこっちこしらえとるくせして何が大丈夫やねん」
「え?やっ、その……」
「ほら早よう」
言いつつ、階下になだれ込んできた気配に何故か沖田の顔が顔が曇る。
どうやら遠ざけたいのは俺だけでないらしい事実に内心首を傾げながらも、はっきりしないそいつに再び手を伸ばした。
刹那。
珍しく眉を下げて心底困ったように口を結んだ沖田は直後、今度は物凄く悔しそうに己の羽織の裾を握り、上目に俺を睨み付けてきた。
「…………です」
「は?なんやて?」
「ーーっ、ですからっ!」
どれ程言いたくないのか、ぼそぼそと口の中で喋るそいつに手を耳に添えて聞き返す。
すると、思いもよらず延びてきた手に勢いよく体が引き寄せられた。
『お馬、なんです』
耳許で消え入りそうに小さく囁かれた言葉。
……はい?
ぱちぱちと瞬きし、漸くその言葉を理解した俺は、ゆっくりと顔を動かした。
本意ではないのだとありありと物語る沖田の顔は、見事な膨れっ面。
こんな暗闇でなければきっと耳まで赤く染まっているのだろう。
魂(タマ)を張った殺り合いから一転、なんとも生活み溢れるまさかの報告。
そんなことを言い出す理由は一つしかない。
下ではまだ局長の甲高い咆哮が聞こえているのだが──
一気に緊張感が霧散した。
「……ぷっ」
「……笑うな」


