飼い猫と、番犬。【完結】


奥歯を噛み締め刀を握る。


けどこの舌先三寸なのせられ方には覚えがある。


脳裏に過った山崎の黒い笑みに何糞と思えば、苛立つ心が少しだけ収まった。


……落ち着け、山南さんにも言われたでしょう。名などこの場においてどうでも良いこと。


自戒するように静かに息を吐いて、男に向けたままの視線に力を籠めた。



「お縄になりに来たのなら此方は早々に済ませたいのですが」

「いや?本当は面倒だからさっさと帰ろうと思ったんだけどね、君を見て気が変わった」


仲間が殺られ、今も下では刃を交えているというのに、事も無げにそう言ってのける男に少しの気味悪さを覚える。


そして、捕まる意思もなくこの場に現れたというその強気な態度に、私は今一度強く刀を握った。



「君さ」


軽やかに身を起こしたそいつの目が、真正面から私を捉える。


これは山崎よりも質が悪い。


相変わらず微笑みの浮かんだ顔とは対照的に、そこは明らかな殺気に満ちていた。





「邪魔になりそうだから、死んで?」



再び響いた重く鋭い金属音に、一瞬火花が散った。


──強い


さっきまでの雑魚とは桁が違うと本能でわかる。


間近でニィと上がった口端に、思わず背筋が粟立った。