放課後。いつもの校庭。
今日もサッカー部周辺には、大きな人だかりが。
冨坂先輩と付き合うことになったからって、それがバレた訳じゃないし、明らかになったとしても、人だかりの前列に立ってサッカー部を見れるとは限らない。
第一、私は部活が早めに終わったらちょこっと見に来る程度だから、前列に立つことなんて不可能に等しい。
帰宅部、もしくは外部活の女子達が占領しない日なんてないからなぁ...
仕方なく、今日も背伸びをして校庭を見渡す。
こういう時、いつだって私が最初に見つけるのは海渡だ。
冨坂先輩を見つけようとしても、絶対視界に入る。
それは何故か。考えてみれば簡単なこと。
海渡のソックスはいつだって、鮮やかで明るい蛍光色なのだ。
オレンジや黄色、どれも海渡の少し日に焼けた細い足に映えるものばかり。
たまにケンカした時だって、嫌でも目に映ってしまう。
まぁ...海渡が格好よくて人気なのは認めてる。それは...悔しいけど...
サッカーしている時の海渡はいつも真剣そのもので、練習中にあっちが私を見つけることなんて一度もない。
でも、休憩中に目が合うことはある。その時の海渡は...いつだって優しく笑うんだ。
その瞬間は何もかも忘れて格好いいと思ってしまう。
もう!私には先輩がいるのにー!
「あっ、愛梨ちゃん!」
聞き慣れた声で呼ばれて振り向くと、そこには冨坂先輩が。
「先輩!」
「見に来てくれたんだ。嬉しいな」
そう言って爽やかに笑う。本当に整った顔してるなぁ...
そうだ、海渡のことなんて気にしてる暇ないよ!
「えへへ、よく見つけられましたね?」
一番後ろにいる上、身長低めの私を見つけられるとは相当だ。
「当たり前じゃん。彼氏だよ?」
うわぁ...嬉しいなぁ...
そういうのサラッと言えるのがすごい。
思わず見とれていると、
「あ、そうだ。ねぇ愛梨ちゃん、今度の土曜日暇かな??」
と不意に声をかけられる。
今度の土曜日?も、もしかして、デートのお誘い...!?
そうだったら嬉しすぎる!飛び上がって喜んじゃう!
もちろん即OKしようと、開いた私の口を誰かの大きな手が塞いだ。
「むぐっ!」
「すみません、先輩。今度の土曜は先約があって」
いつの間にかここまで来ていた海渡が、そう答える。
「海渡!?」
「先約って?海渡と愛梨ちゃんの?」
「えぇ、まぁ。せっかくのデートのお邪魔しちゃったみたいで申し訳ありませんね」
か、海渡...嫌味含んでない...?
てか!どうなってんの?
「ちょっと!先約ってなんのこと?」
小声で海渡に尋ねる。すると海渡は一瞬驚いた様な顔をした。
そして、先輩に
「じゃ、そういうことなんで。お先に失礼しまーす」
と告げ、私の腕を引っ張って歩き出した。