『鬼』は、極限まで弱ってしまった人の心につけ込む。

そういう状態の人にしか聞こえない声で、甘い事を囁く。
 

例えば、


(我慢なんてしなくていい……お前がしたいことを、自由にやれ)


といったふうに。

それも、一回や二回じゃない。

毎日毎日、頭がおかしくなるほど囁くらしい。


目を付けられた人間が、「はい」と言って行動に移す時まで……。



良心のブレーキを壊された人は、もう止まらない。

けれども、ここから先が普通の犯罪者と違うところだ。


『鬼』に憑かれた人間は、普通の人間には見付けられない。


普通の犯罪者がうっかり残してしまうような証拠や遺留品を、一切現場に残さない。


そのために、信じられないほど狡猾になる。