琥珀の記憶 雨の痛み

彼の言葉通り、その波は20分もせずに引いていった。

きっと指示を出す社員さんも分かっていたから、あのタイミングでも休憩に行かせたのだろう。
遅らせて、この後に来るホントのラッシュ時に被ってしまったら休憩が回らなくなってしまう。

ちゃんと考えられている。


ユウくんは、他の階のイベントなんて初めから把握していたんだろうか。
聞けば、「まだパート扱いなのに、もう社員同様にこき使われてる」そうだ。

だから他フロアの状況も聞かされるし、知ってなくてはならない、らしい。


言われてみれば、レジ応援に駆けつけてくれるのも早かった。
そもそも研修だか練習の一環で空いている時間帯に入っていた頃ならばともかく、レジ応援に入れるのは社員さんだけのはずだ。

こき使われているのか頼られているのかは分からないけれど、会社として既にユウくんを正社員と同様に扱っているのだろう。


「一応、もう1人が戻ってくるまでレジにいろだと」

と、レジが空いてからも居座られるのは妙に気まずかった。


内職に手を動かして紛らわそうにも、さっき有希さんがキャッシャー台を綺麗にしたばかりで、掃除する場所もない。
ましてや、お金を触ることは許されていないユウくん1人をレジに残して、備品の補充に行くわけにもいかない。


「あんた、さっきとは打って変わって余裕そうじゃねえか」

「……はい?」


さっき、とは、いつのことだ。
一瞬考えて、バイトが始まる直前のことを思い出した。
動揺しているところを見られたし、何だか変なことを言われたんだ。


でも、一体何を根拠に『余裕そう』なのか。

『ちゃんと仕事しろ』と釘を刺して行ったのは自分のクセに。
私が売り場でさっきみたいに滅入ってたら、それはそれで怒るに違いないのに。


どうにも腑に落ちなくて黙っていると、ユウくんは通路側に視線を向けてこっちを見ないまま言葉を続けた。


「あの面子で。よく遊びに行こうとか言えるな」